1.はじめに
昨年より、鋼橋RC床版の劣化について、診断事例を示してきました。
今回、北陸地方の道路橋 鋼橋RC床版で舗装とともに床版上面かぶり部分が剥離したサンプルを入手しました(写真1参照)。
この試料でいろいろ分析した結果について紹介します。
写真1・剥離したサンプル

写真2・鋼橋 道路橋での舗装路面の損傷事例(上記試料の採取位置と異なります)

2.中性化の状況
試料を切取整形し、中性化の進行状況を、フェノールフタレイン1%エタノール溶液を噴霧して確認しました。
アスファルト舗装が施されていたことからほとんど中性化は進行していませんでしたが、表面から1mm程度は中性化の影響を受けているようでした(写真3参照)。
写真3・中性化の状況

塩化物イオンの浸透状況
本橋は、比較的交通量が多く冬期には凍結防止剤(主成分NaCl)が散布される環境にありました。試料を表面から5mmピッチにスライスカットし、コンクリート中の全塩化物イオン濃度を分析しました。結果を図1に示します。結果は以下のとおりです。
- 塩化物イオンの浸透は塩化物イオンが供給される上面側の塩化物イオン濃度が高いわけではなく、深さ12.5mmの位置をピークとする山型の分布形状を示しました。
- 1の原因として試料表面部では路面水による洗い流しの影響を受けて、塩化物イオンが溶出したことや中性化の進行に伴い表面部の塩化物イオンが内部に押込められる、いわゆる中性化フロントの影響を受けているように考えられました。
- 塩化物イオンの浸透により、路面水が床版に浸透していることが確認できました。
図1 塩化物イオン濃度の分析結果

4.薄片観察
写真3の試料から薄片を作製し、偏光顕微鏡に確認しました。ひび割れが多数発生しておりました。結果は以下のとおりです。
- 骨材の界面にひび割れが発生していました(写真4参照)。ひび割れの原因はコンクリート打設時のブリージングによるものと推察しました。
- 骨材に沿ったひび割れも発生していました(写真5参照)ひび割れの原因は骨材の乾燥収取によるものと推察しました。
写真4 ブリージングによるひび割れ

写真5 骨材の乾燥収縮によるひび割れ

5.まとめ
道路橋 鋼橋RC床版の劣化には、路面水の浸透が深く関与しているようです。また、ひび割れにより、劣化が加速されているようです。得られた結果は以下のとおりです。
- 床版の上面側にてわずかであるが中性化の進行が認められました。
- 塩化物イオンの浸透に特徴がありました。上面側では一旦浸透した塩化物イオンが外部に溶出させられていることや中性化フロントの影響を受けているようでした。
- 建設時のブリージングや骨材の乾燥収縮によるひび割れが確認できました。
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