積雪寒冷地における鋼橋RC床版の骨材劣化の特徴
1.はじめに
ご紹介します事例は、高速道路の3径間連続鋼鈑桁橋の床版から採取した貫通コアの分析結果です。昭和48年供用、設計荷重がTL-20であったことから、車両大型化対策のため床版上面を鋼繊維補強速硬コンクリートにより増厚して補強した経緯がありました(図1参照)。しかし、この補強が裏目にでて、床版の劣化を促進させ、最終的には床版を取換えることになったのです。この致命的な原因は、増厚コンクリートによる補強を実施する際、交通を確保するため施工上の継ぎ目を走行車線の右側輪荷重の位置に設置してしまったことにあります(図2参照)。これにより、継ぎ目の付着が切れてしまい、路面水が浸透したことにより床版の劣化を促進させたものです。コアは撤去した床版から採取したものです。
図1 RC床版および増厚の構造[1]

図2の継ぎ目の位置と主な劣化の発生状況[1]

2.分析結果
作製した大型薄片を写真1に示します。薄片は深さ方向で4cmピッチ、5枚作製しています。観察結果は以下のとおりです。
- コンクリート用骨材として川砂利、川砂が使用されています。川砂利ではアルカリ骨材反応性を示す流紋岩類が多く、わずかに安山岩を含みます。
- 増厚コンクリートとの境界付近の溶結凝灰岩にひび割れが認められます(写真2参照)。床版補強を実施する際、切削機で床版上面を削り取った際に発生したマイクロクラックと推察されます。このようなひび割れが多発すると増厚コンクリートとの付着力が十分に確保できない可能性が考えられます。
- 砂利の溶結凝灰岩および安山岩でアルカリ骨材反応性のひび割れが認められます(写真3および写真4参照)。また、砂にもアルカリ骨材反応性のひび割れが認められます(写真5参照)。
- 乾燥収縮によって発生したと考えられる鉛直方向のひび割れが認められます(写真6参照)。
- アルカリ骨材反応性のひび割れが認められるものの床版の繰り返し荷重から生じる顕著なひび割れは確認できませんでした、床版の耐荷力はあまり低下しているようには感じられません。しかし、工学上、床版においてコンクリートの劣化が進行していなくとも利用者に安全な交通を確保するために舗装にポットホールが多発するようではいけません。床版コンクリートの管理基準というは舗装の耐久性に左右される場合あります。これは非常に重要な点です。
- こまれまで3件の床版におけるコンクリート診断事例を紹介してきました。しかし、大型薄片では分析に限界があります。さらにミクロをレベルの観察が必要と感じました。これから、薄片を作製していきます。結果については、また報告していきたいと考えています。
3.まとめ
試験結果の主要な点をまとめると以下のとおりです。
- 床版のコンクリートには川砂利、川砂が使用されていました。砂利には北陸地方でアルカリ骨材反応を引起こす流紋岩類が多く使用されていました。なお、大型薄片にて溶結凝灰岩(砂利)、安山岩(砂利)および砂でアルカリシリカ反応性のひび割れが確認されました。
- 増厚コンクリートと床版コンクリートとの境界付近の砂利にマイクロクラックが認められました。このようなひび割れが多発すると増厚コンクリートとの付着力が十分に確保できない可能性が考えられました。
- 本コアから床版の耐荷力は低下しているような劣化は見受けられませんでした。しかし、工学上、床版コンクリートが致命的な劣化に達しなくとも利用者の交通を安全に確保するためにはポットホールの発生等舗装の耐久性により、床版コンクリートにおける補修の管理基準が左右され場合があると考えました。
引用文献
[1] 石川 裕一、青山 實伸、倉戸 伸浩、西尾 守広:劣化した道路鋼橋RC 床版の凍結防止剤による塩分浸透特性、コンクリート工学年次論文集、Vol.32、No.2、pp.1393-1398、2010
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