1.はじめに
ご紹介します事例は、北陸の山間部に位置する2連単純鋼鈑桁橋の床版下面から採取したコアの分析結果です。昭和42年供用、床版厚は不明、ひび割れ等の外観劣化状況もわかりません。コアは、床版下面のひび割れ近傍から、上向きに採取したものとのことです。貫通はしていません。
2.分析結果
作製した大型薄片を写真1に示します。薄片は深さ方向で4cmピッチ、3枚作製しています。観察結果は以下のとおりです。
- コンクリート用骨材として川砂利、川砂が使用されています。川砂利で安山岩が比較的多く使用されています(川砂利面積の約3割程度)。北陸地方の道路構造物の調査結果では、コア側面に現れた安山岩の面積率が4%を超えると橋台・橋脚の隅角部にアルカリシリカ反応によるひび割れが発生する傾向があり、その安山岩の面積率が多くなるほど劣化は深刻になるとの報告もあります。
- 安山岩の砂利にひび割れが発生し、セメントペーストへと進展しています。ひび割れの形態からアルカリ骨材反応とも考えられます。大型薄片の場合、薄片の厚みを薄くできないため、ゲルの同定が難しいです。これを検証するために別途、対象の部分より通常の薄片(20×20mm程度、厚さ20μm)を作製する必要があります。
- 砂に貫通したひび割れが発生しています。ひび割れの形態からアルカリ骨材反応とも考えられます。3)と同じく、通常の薄片を作製しないとはっきりとした原因は特定できません。
- 床版下面から11cm程度のところに比較的大きな水平ひび割れが発生しています(写真1および写真2参照)。劣化した床版では中立軸付近に水平方向のひび割れが生じるとの報告があります。水平方向のひび割れにより床版が2分割されると設計上、非常に不利です(曲げ応力度に対する抵抗力は床版の高さの3乗に比例します)。
- アルカリ骨材反応によるひび割れの進行に加え、舗装面から床版への水の浸透が浸透し、床版の耐力が著しく低下して可能性が推察されました。
- 床版下面から2cm程度、セメントペースト部分の変色が確認されました。中性化の進行により、方解石が明るく見えているものでした。中性化の進行により、下面側鉄筋の腐食が進行する可能性がありました。
3.まとめ
試験結果の主要な点をまとめると以下のとおりです。
- 床版のコンクリートには川砂利、川砂が使用されていました。砂利には北陸地方でアルカリ骨材反応を発生させる安山岩が多く使用されていました。
- 砂利の安山岩でからひび割れが発生し、セメントペーストに進展している状況や砂を貫通するひび割れが確認されました。ひび割れの形態からアルカリ骨材反応が生じている可能性が高いと判断しました。
- アルカリ骨材反応によるひび割れの進行、舗装面から床版への水の浸透が浸透、床版下面からの中性化の進行による鉄筋腐食の可能性、床版の耐力が著しく低下していると考えられました。
上から床版下面から8〜12cm,4〜8cm,0〜4cm
左:太陽光 右:紫外線透過 (An:安山岩)
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