1.はじめに
最近、道路橋の床版での劣化が顕著です。
経年劣化のほか、大型車の交通荷重や凍結防止剤(主成分NaCl)の影響を受け、厳しい環境条件に置かれているためと考えます。
また、NEXCO各社では床版取換えをはじめとする大規模改良工事を進めていくとのことです。
特に劣化が顕著なのは、図1に示しますタイプの橋梁床版です。
我々は、(鋼)鈑桁橋の床版と呼んでいます。
床版の厚さは20cm程度で鉄筋コンクリート造となっています。
一旦、床版下面までひび割れが入ると数年で床版がぼろぼろになる場合があります。
非常に恐ろしいものです。
今回分析結果を紹介する事例は、昭和52年に供用した鋼鈑桁橋の床版です。
持ち込まれたコアは平成22年に採取したものです。
持ち込まれて間もなく蛍光樹脂を含浸させ、5年間保管しておいたものです。
橋梁の縦断勾配が5%と非常に急勾配なのが特徴です。
当初の床版厚は17cmと非常に薄く、供用後まもなくひび割れの発生したことから6cmの上面増厚を施工したとのことです。
上面増厚の時期および材料は不明です。
コアは床版上面から採取されたもので長さ11cm程度しかありません。
大型薄片を4cmピッチ作製しました。
2.薄片観察の結果
2.1マクロ的観察
作製した大型薄片を写真1に示します。
上面から約6.5cmのところにコンクリートの継ぎ目がありました。
6cmの上面増厚を実施したことが確認できました。
よほど目を凝らさないとよくわかりません。
既設床版との付着は相当十分に確保できていると推察されました。
今回、わざわざ、紫外線を透過(薄片の下側から紫外線を照射)でお見せしているのは、上面増厚と既設床版のセメントペーストの部分では透過する光の明るさに差が見られることです。上面増厚の方が既設床版より暗く見えないでしょうか。これは、既設床版が上面増厚のコンクリートに比較して空隙の多い、あまり密実なコンクリートが施工されていないことを示しています。蛍光樹脂が空隙に浸透する性状を利用したものです。根本は、この橋の縦断勾配にあります。縦断勾配5%の床版に生コンクリートを打設する際、十分なバイブレーターの締固めが当時の施工では難しいためです。十分にバイブレターをかけるとコンクリートが流れていってしまい、5%の勾配の床版の仕上げができないのです。床版の耐久性が低い原因の一つは、ここにあると考えます。
2.2既設床版の観察
既設床版の部分にて、顕微鏡の倍率を上げて観察しました。特徴として以下が挙げられます(写真2および写真3参照)。
- 砂を貫通するひび割れ
- 砂利に発生したひび割れ
- 比較的大きめ砂利周囲でのブリージングによる空隙
大型薄片の場合、薄片を薄くできないため砂の岩種やゲルを特定するのが難しいのです。
しかし、ひび割れの形態からアルカリ骨材反応(ASR)によるものと考えられます。
また、砂利のひび割れは砂ほど顕著ではありませんが、ややアルカリ骨材反応により発生したひび割れのように思えます。
2.3上面増厚の観察
上面増厚の部分で確認された特徴を以下に示します(写真4〜写真5参照)
- 砂利内のひび割れや砂利周囲に発生したブリージングによる空隙
- セメントペースト内の鉛直方向のひび割れ
- 砂には特に損傷は認められない
砂利内に発生したひび割れは、その形態から交通荷重により砂利が割れたものと推察されます。また、セメントペースト内の鉛直方向にひび割れは、既設床版の上にフレッシュなコンクリートを施工したことによるセメントの収縮ひび割れと考えます。
4.まとめ
舗装から浸透した路面水が床版に発生したひび割れに浸透し、床版の耐久性を著しく損なっているものと考えられました。この原因には以下の点が確認されました
- 本橋における床版の劣化には、計画・設計時における縦断勾配(5%)を採用したことで、当時の技術として密実なコンクリートを施工できなかったことも起因していました。
- 既設床版の発生したひび割れの原因はアルカリ骨材反応(ASR)が関与している可能性がありました。
- 上面増厚では、骨材が交通荷重によりひび割れが発生した可能性がありました。また、セメントの収縮が原因でひび割れが発生したケースも確認されました。
- 比較的大きな砂利の周囲にブリージングによる空隙が確認されました。
最近、床版の劣化が大きな問題となっています。
「竃村昌弘の研究所」では老後の楽しみと貯めておいた床版のコアが何本も残っています。
これからも床版の劣化事例について分析を続けていきます。ご期待ください!
上から床版上面から0〜4cm、4〜8cm、8〜11cm
左:太陽光 右:紫外線透過
岩種凡例 An:安山岩、Gr:花崗岩 Wt:溶結凝灰岩
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