1.はじめに
建物の柱に鉛直方向に卓越したひび割れが発生していました(写真1参照)。
この建物は、平成の一桁代に建設されたとのことでした。
以下ではひび割れ部より採取したコアにより分析した結果を報告します。
2.スラブ試料の観察結果
柱より水平方向にコア(φ75mm、L70mm程度)を採取しました。
この建物の付近ではアルカリ骨材反応に劣化した橋梁等の構造物が多数見受けられます。
よほど苦労したのでしょうか、採取したコアでは、骨材を厳選し、アルカリ骨材反応に対して「無害」とされている片麻岩や花崗岩が主体に使用されていました。
写真2はコアより作製したスラブ試料です。
左側が太陽光、右側が紫外線を落射したものです。紫外線を落射したことによりひび割れや空隙が黄色に発色し、その状況がよくわかります。コアは少し短いですが、ひび割れは片麻岩から発生しているようです。
3.大型薄片の観察結果
写真2のスラブ試料から大型薄片を作製してみました(写真3参照)。
大型薄片を作製すると顕微鏡の倍率を上げることができます。
ひび割れの起源と思われる片麻岩からセメントペーストへとひび割れが進展している状況を写真3 に示します。
アルカリ骨材反応を生じるとこのようなひび割れが発生します。
しかし、偏光顕微鏡で見てもアルカリ骨材反応により生成されたゲルを確認できませんでした。
- 写真4:片麻岩からのひび割れがセメントペースㇳに進展している状況(写真3のA部の拡大)
4.薄片の観察結果
数枚の薄片を作製してみました。砂利を貫通するひび割れが片麻岩や花崗岩で確認されました(写真5~写真7参照)。
また、写真7の片麻岩のひび割れの周囲にはアルカリ骨材反応性の隠微晶質石英が確認されました。
この鉱物はアルカリ骨材反応に対して遅延膨張性(非常にゆっくりと反応を生じる)を示すものです。
ひび割れの形状からアルカリ骨材反応が生じているものと考えます。
しかし、どのひび割れを見てもゲルが確認できないのです。
果たしてアルカリ骨材反応が原因で建物の柱にひび割れが発生したと判断していいものか、疑問が残るところです。
- 写真5:片麻岩を貫通するひび割れ(蛍光顕微鏡画像、×10倍)

- 写真6:花崗岩を貫通するひび割れ(蛍光顕微鏡画像、×10倍)

- 写真7:片麻岩を貫通するひび割れ(偏光顕微鏡画像)

- 写真8:隠微晶質石英(偏光顕微鏡、直交ニコル、×600倍)

5.まとめ
建物に発生したひび割れの原因を推定するため、顕微鏡観察を行いました。得られた結果をまとめると以下のとおりです。
- 1)建物表面に発生したひび割れの起源には、ひび割れた片麻岩がありました。
- 2)コンクリート中には砂利の片麻岩や花崗岩でひび割れが発生しているものがありました。片麻岩でアルカリ骨材反応性の鉱物、遅延膨張性の隠微晶質石英を確認しました。
- 3)砂利で確認されたひび割れは、形状からアルカリ骨材反応によるものと推察しました。しかし、ひび割れ部では明確なアルカリシリカゲルを確認できませんでした。
- 4)建物に発生したひび割れの原因について、アルカリ骨材反応によるものか、本試験では断定できませんでした。
その他の診断事例
トンネル内の縁石が「く」の字形に曲がった!?
詳細はこちらから
トンネルで落下したコンクリートの原因推定
詳細はこちらから
関連情報
野村研究所のNaOH溶液浸漬法について
詳細はこちらから
アルカリ骨材反応(ASR)とは?
詳細はこちらから
NaOH浸漬法を用いたアルカリ骨材反応抑制(補修)効果の検証
詳細はこちらから
アルカリ骨材反応の現地調査に行ってきました
詳細はこちらから