1.はじめに
昭和57年に建設された道路トンネルのコンクリート縁石(幅200×高さ250×長さ600mm)が、写真1のように「く」の字形に曲がり、車道側に飛び出す事件が発生しました。
文献を検索してみると同様な劣化事例は報告されており、原因は「エトリンガイドの遅れ破壊」とのことでした。
以下ではコンクリート縁石からコアを採取して分析した結果について報告します。
- 写真1:「く」の字形に曲がり、車道側に飛び出したコンクリート縁石
2.大型薄片による観察結果
私は、縁石の鉛直方向と水平方向からコアを採取し、コアに蛍光塗料を含浸させ顕微鏡観察用の試料を作製しました(図1参照)。
コアからコンクリート用骨材としては丸みを帯びた数種の岩種が確認されました。
河川産の砂利や砂を使用していることが判断できます。
写真2および写真3は大型薄片をコアから作製したものです。
左側が太陽光、右側が紫外線を透過したものです。
紫外線を透過したことによりひび割れや空隙が黄色に発色し、その状況がよくわかります。
ひび割れは骨材の界面に沿ったものや骨材自体が割れているものが見受けられます。
天端の大型薄片の方が側面の大型薄片よりひび割れの発生が少ないです。
骨材界面に沿ったひび割れは縁石作製時のブリージングによる可能性が高いと考えられます。
また、骨材でひび割れが発生しているのは流紋岩質溶結凝灰岩、安山岩および砂岩で見受けられました。
アルカリ骨材反応によりひび割れが発生した可能性も高いです。
もう一つ着目したいのは気泡です。
ほとんど気泡(泡のような空隙、径0.03〜0.25mm程度))があまり見受けられないのです。
コンクリート中にある程度、気泡を入れ分散させることでワーカビリティーの改善、ブリージングの減少および耐凍害性の増大を期待できます。このためにAE剤と呼ばれる混和剤(薬のようなもの)を混入するのが一般的です。
しかし、コンクリート縁石のような工場製品では蒸気養生の期間を短縮するためAE剤を使用しない場合もあります。
気泡が十分に機能していないため、ブリージングや凍結融解作用により縁石の表面付近では骨材やセメントペーストにひび割れが発生したことも考えられます。
3.薄片観察
アルカリ骨材反応が気になったので薄片を数枚作製しました。
写真4はコア表面部に発生したひび割れ部で作製した薄片の画像です。
直交ニコル下では,コンクリートが中性化した場合、セメントペースト中に微細な方解石(CaCO3)が多く生成し、セメントペーストが明るく輝いて見えます。
このため,中性化の範囲が偏光顕微鏡により,詳細に確認できます。
砂岩からセメントペーストにかけてひび割れが進展しています。
アルカリ骨材反応によるゲルは確認できませんでした。中性化領域ではアルカリ骨材反応が生じにくいため、コア表面付近のひび割れは凍結融解作用で発生した可能性が高いと考えます。
特に激しくアルカリ骨材反応を生じていたのは砂利および砂とも流紋岩質溶結凝灰岩でした。
これらの骨材中のひび割れはセメントペーストに発達し、非晶質のアルカリシリカゲルが確認されました(写真5および写真6参照)。アルカリ骨材反応としてはかなり進行したものです。
なお、薄片観察ではエトリンガイドは確認できず、本劣化の原因にはエトリンガイドの遅れ破壊はないものと考えます。
したがって、コンクリート縁石が「く」の字形に曲がった主たる原因はアルカリ骨材反応により、縁石が異常膨張したことによるものと判断されます。
- 写真4:砂岩(砂利)に生じたひび割れ(左:単ニコル、右:直交ニコル、×25倍)
- 写真5:流紋岩質溶結凝灰岩(砂利)のアルカリ骨材反応の状況 (単ニコル、左側×25倍、右側×200倍)
- 写真6:(砂)のアルカリ骨材反応の状 (単ニコル、左側×25倍、右側×200倍)
4.まとめ
トンネル内で発生したコンクリート縁石が「く」の字形に曲がった現象について、コアによる分析結果をまとめると以下のとおりです。
- 1)コンクリート中には多くのひび割れが確認されました。ひび割れの原因は、縁石製作時のブリージングによるもの、凍結融解作用によるものおよびアルカリ骨材反応によるものと考えられました。
- 2)コンクリート縁石の耐久性が乏しかった原因の一つに気泡が十分に機能していなかったことも考えられました。
- 3)コンクリート縁石が「く」の字形に変形した主たる原因は、アルカリ骨材反応によりコンクリートが異常膨張したことによるものと判断しました。特にアルカリ骨材反応が顕著であったのは砂利および砂とも流紋岩質溶結凝灰岩でした。
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