1.コンクリートはく落片
今ではコンクリート片が落下するということを、よく耳にするようになった。
はく落片がまともに当たったら、大事故につながる可能性が高い。
11月の末、山間部に位置する道路トンネル(昭和53年建設 冬期にはトンネル湧水で氷柱ができる厳しい気象環境)で落下したコンクリート片が持ち込まれた。
トンネルの(覆工)コンクリートは、施工上、約10mごとに打継ぎ目を設けられる。
コンクリート片は、その打継ぎ目から落下したものだ。
落下したコンクリート片は、重量約20kg(長さ1m×最大幅0.5m×厚さ9p)
ちょうどトンネルの真上にあたる部分から落下したものだ(写真1参照)。
写真1で赤紫色を呈しているのは現場でフェノールフタレイン溶液を噴霧してコンクリートの中性化の進行状況を確認したものであろう。
本来、コンクリートはアルカリ性の高いものであるが、二酸化炭素の影響を受けると中性化が進行する。
トンネル内面側および打継ぎ目側で約1cm赤紫色を呈していないのは、コンクリートに中性化(ph10以下)が進行していることを示していた。
なお、はく落面ではほとんどが赤紫色を呈していることから、はく落面が長期的に開いて二酸化炭素の供給を受けていたわけではないことが推察された。

2.蛍光顕微鏡システムによる観察結果
私は、はく落片の断面方向(写真1の左側の断面)で蛍光顕微鏡システム観察用のスラブ試料を2枚作製した(写真2参照)。
研磨完了後、骨材にひび割れが認められたことから、アルカリ骨材反応による劣化の可能性も考えられた。
このため粗骨材(直径5mm以上)の岩種面積率を算出した。
集計結果を表1に示す。
北陸地方でアルカリ骨材反応性を示す安山岩、流紋岩類および頁岩が確認された。
特に反応性の高い安山岩の構成率が11%と高いことが特徴であった。
- 岩種凡例:An:安山岩,Ry:流紋岩,Wt:流紋岩質溶結凝灰岩,Ss:砂岩,Sh:頁岩,Ls:石灰岩
- 写真2:蛍光顕微鏡システムにて観察するスラブ試料
蛍光顕微鏡システムでの観察結果を写真3および写真4に示す。
観察結果は以下のとおりであった。
2つのスラブ試料と共通することは、中性化領域内では骨材(砂利および砂)にひび割れが発生していないのに対し、はく落面に近づくに従い骨材にひび割れが発生する傾向があったことだ。
とくにはく落面付近では,骨材に発生したひび割れがセメントペーストへと進展していた。
はく落面付近では、頁岩でのひび割れの発生が顕著であった。
また、一部、砂岩にもひび割れを有するものもあった。
本来、アルカリ骨材反応が進行した場合,北陸地方では反応性の高い安山岩で顕著なひび割れが発生する。
しかし、今回のケースでは安山岩で顕著なひび割れが生じておらず、遅延型膨張性(アルカリ骨材反応による)の頁岩でひび割れが顕著に発生していた。
本ケースは、アルカリ骨材反応による劣化の進行というよりもトンネル湧水がコンクリート内に浸透し、吸水性の高い頁岩で凍結融解作用によってひび割れを進展させ、コンクリート片が落下した可能性が高いことが推察された。
写真3 蛍光顕微鏡システムによる観察結果(1)
スラブ試料(紫外線照射)↓
中性化領域内での安山岩(砂利)にひび割れ無し↓
未中性化領域内での流紋岩質溶結凝灰岩(砂利)内にひび割れ↓
未中性化領域内での頁岩(砂利)内のひび割れがセメントペーストに伸びる↓
はく落面付近での頁岩(砂利)内のひび割れがセメントペーストに伸びる↓
はく落面付近での頁岩(砂)内のひび割れがセメントペーストに伸びる↓
はく落面付近での砂粒子内(岩種不明)のひび割れがセメントペーストに伸びる↓

写真4 蛍光顕微鏡システムによる観察結果(2)
スラブ試料(紫外線照射)↓
中性化領域内での安山岩(砂利)にひび割れ無し↓
中性化領域内での流紋岩(砂利)にひび割れ無し↓
未中性化領域内での安山岩(砂利)内にわずかなひび割れ↓
はく落面付近での頁岩(砂)内のひび割れがセメントペーストに伸びる↓
はく落面付近での砂岩(砂)内のひび割れがセメントペーストに伸びる↓
はく落面付近での砂粒子砂内のひび割れがセメントペーストに伸びる↓
3.まとめ
本診断により得られた結果をまとめると以下のとおりである。
- 1)コンクリート用骨材には北陸地方でアルカリ骨材反応性を示す安山岩、流紋岩類および頁岩が使用されていた。
- 2)はく落片の蛍光顕微鏡観察の結果,中性化領域では骨材にひび割れがほとんど発生していないが、はく落面に近づくに従い、骨材のひび割れが多くなった。
- 3)骨材からのひび割れは,セメントペーストに進展するものがあった。そのひび割れの発生している岩種のほとんどが頁岩であった。
- 4)本来、アルカリ骨材反応が生じた場合、反応性の高い安山岩で顕著なひび割れが発生する。しかし、本ケースの場合、遅延型膨張性の頁岩でひび割れが発生していたことは、アルカリ骨材反応による劣化より、トンネル湧水の凍結融解作用が原因でひび割れが発生し、コンクリートがはく落した可能性が高かった。
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