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アルカリ骨材反応抑制(補修)効果の検証について

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アルカリ骨材反応抑制(補修)効果検証AlkaliSilicaReaction repair effect

1.はじめに

昭和58年(1983年)にNHKのテレビ報道に端を発して社会問題化した、塩害やアルカリ骨材反応などによるコンクリート構造物の早期劣化にかかわる一連の問題、いわゆる「コンクリートクライシス」。
これを受けて当時の建設省(現在の国土交通省)がまとめた「建設省総合開発プロジェクト コンクリートの耐久性向上技術の開発(土木構造物に関する研究成果)平成元年5月(総プロ)」に示された補修材料でアルカリ骨材反応を生じた構造物でひび割れ注入+表面被覆工法が広く展開された経緯がありました。
しかし、これらの材料で補修しても数年でアルカリ骨材反応の膨張に追従できず、ひび割れや水膨れが生じるものが少なくありませんでした。
このため、最近のアルカリ骨材反応では内部の鉄筋腐食を抑制するため、ひび割れ注入等のひび割れ処理のみを行い、表面被覆工法を敬遠する傾向が見受けられます。
一方、近年、アルカリ骨材反応の補修対策として実施した表面被覆工法に10年経過しても健全な状態を保っているものもでてきました。何が違うのだろうか、という疑問を持ちました。
さらにコンクリート片がはく落する事件が相次ぎ、第3者に対するはく落防止用のシートを施工しなければならいケースも増えています。この材料は果たしてアルカリ骨材反応を抑制しているのだろうか、という疑問も持ちました。
そこで本研究は,補修を行ったいくつかの工法別に,「NaOH浸漬法(通称カナダ法、温度80℃ 1N・NaOH溶液浸漬)によるコアの膨張率」を補修前と補修後約10年後のデータで比較しました。
これにより、コンクリートのアルカリ骨材反応による膨張の進行性を把握し,構造物を維持管理する上で必要とされる補修工法の選定手法について提案しました。


2.調査対象

調査対象とした構造物は、富山県内の道路構造物(橋脚および橋台、コンクリートの設計基準強度:24N/mm2)です。
1次補修としてエポキシ樹脂系のひび割れ注入と表面被覆工法を実施しておりました。
これらの構造物はほぼ同じ水系(常願寺川および神通川)の河川産骨材を使用しており、冬期間には凍結防止剤の影響を受けていました。
各構造物ではコンクリート中の安山岩がアルカリ骨材反応により、激しく反応していることを偏光顕微鏡による薄片観察で確認しており、構造物間でアルカリ骨材反応の劣化程度にほとんど差がないことも確認しております。
構造物の補修工法を表−1表−2に示します。
補修は、表面被覆工法として、アクリルゴム系、ポリウレタン系、ウレタン系、エポキシ系、3種類の連続繊維シートです。


表−1 表面被覆工の種別と対象構造物


表−2 連続繊維シートの種別と対象構造物


3.調査結果

各材料の10年経過後における損傷状況の比較を写真−1に示します。
構造物A,C,Fでは表面被覆および連続繊維シートの未施工部でひび割れから溶出消石灰が発生していますが、補修を行った箇所では損傷が表面化していませんでした。
一方,構造物B,D,Eではアルカリ骨材反応による膨張を抑制できず,表面被覆にひび割れが発生していました。
ひび割れの発生により、凍結防止剤の成分がコンクリート中に浸透し、鉄筋腐食を助長する可能性が推察されました。
被覆箇所に損傷が発生しているものは中塗材の塗布量が700g/m2以下のものであり、健全なものは2,000g/m2以上のものでした。
したがって、中塗材を厚くすることで、アルカリ骨材反応の膨張によるひび割れ追従性を確保でき、被覆材自身の損傷のリスクを低減できるものと考えられました。

写真−1 表面被覆材の損傷状況の比較(A〜F:構造物名・2012年12月の現状)


4.NaOH浸漬法によるコアの膨張率の評価

アルカリ骨材反応はコンクリートが膨張する病気です。含有するシリカ鉱物とアルカリとの反応が終了すれば膨張は収まると考えています。
今後の残存膨張性を評価す手法として構造物から採取したコアによるNaOH浸漬法(通称カナダ法、温度80℃ 1N・NaOH溶液浸漬)が提案されております。
NaOH浸漬法は、温度80℃と外部からアルカリ溶液を浸透させることにより、アルカリ骨材反応を促進させます。構造物ではありえない環境でアルカリ骨材反応を促進させることから、研究者の間では敬遠される方もいらっしゃいます。
しかし、私は、コアの膨張率の閾値で調整することや今回実施したように定期的に試験することでアルカリ骨材反応の収束状況を判断できると考えております。
また、最近わかってきましたが、遅延性膨張型を示す岩種について適切にアルカリ骨材反応を誘発させていることも確認しております。構造物のアルカリ骨材反応における膨張量とNaOH浸漬法によるコアの膨張量の関係を図1に示します。
コアの膨張量は構造物の膨張量と一致しません。
これは構造物には鉄筋による拘束があることやコアの膨張量が1次元における長さ方向の膨張量を測定しているためと考えています。

図‐1 アルカリ骨材反応による構造物の膨張とコアのNaOH浸漬法による膨張との関係)


各表面被覆および連続繊維シート施工前および施工後約10年経過後にて、構造物からコンクリートコア(φ55mm)を採取し、NaOH浸漬法を適用しました。
結果を図2に示します。
縦軸の膨張率とはコアの基長さ10cmに対する膨張量の比率で、試験日数21日(NaOH溶液浸漬期間)のデータを示しています。この結果は以下のように評価しております。
構造物AおよびCでは,「NaOH浸漬法によるコアの膨張率」にほとんど変化がありませんでした。
これは,これらの補修材がアルカリ骨材反応の進行を抑制していたものと判断されます。
一方,被覆材に損傷が発生した構造物B,DおよびEでは、「NaOH浸漬法によるコアの膨張率」が時間の経過に伴い低下しており、被覆材によるアルカリ骨材反応抑制効果が発揮されず、損傷が発生したものと考えられます。
また,構造物Fでは「NaOH浸漬法の膨張率」が時間の経過に伴い低下しており、アルカリ骨材反応が進行したものと判断されますが、シート自体が耐久性に優れ,被覆材に損傷が発生しなかったとものと考えられます。
この結果より、カナダ法の膨張率(試験日数21日)が約0.2%程度以下であればアクリルゴム系、膨張率が0.35%程度以下であればウレタン系の表面被覆材が適用できる可能性があります。
このようにNaOH浸漬法を継続的に実施することで補修材料の適合性の判断するうえで重要なデータが蓄積できるものと考えられました。

得られた結果をまとめますと以下のとおりです。

  • (1)「NaOH浸漬法によるコアの膨張率」を継続的に把握することで補修材のアルカリ骨材反応抑制効果を評価できるものと考えられました。
  • (2) アクリルゴム系やウレタン系の被覆材(中塗材の塗布量が2,000g/m2以上のもの)は比較的良好な状態を継続していました。その際に,中塗材の塗布量を十分に確保することでひび割れ追従性が確保され,損傷のリスクが低減された可能性も考えられました。
  • (3)連続繊維シートによるアルカリ骨材反応抑制効果は期待できなかったものの材料自体が耐久性に優れ,損傷が発生しなかったものと考えました。
  • (4)「NaOH浸漬法によるコアの膨張率」の結果より,コアの膨張率が0.2%以下の場合アクリルゴム系,同じく0.35%以下の場合ウレタン系の被覆材が適用できるものと考えられました。

図-2 「NaOH浸漬法によるコアの膨張率」の経時変化



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